来たる総選挙の争点から国連の正体と限界まで喝破!いっそ、次期総裁に…
「自衛隊を国連に差し出せ」暴言の小沢一郎と組むことはあり得ない
「なぜ中国は北朝鮮を支えるのか」を理解しなくては東アジアの危機から脱せられない
(SAPIO 2011年1月26日号掲載) 2011年2月10日(木)配信
文=石破茂(自民党政調会長)
菅政権が急変する東アジア情勢に対応できずにいる一方で、中国は強硬な態度を続け、北朝鮮は暴発が懸念される迫り来る脅威に、日本は今後、どう立ち向かっていくべきなのか。民主党の安全保障政策の幼稚さが目立つ中、自民党の防衛政策通として注目が集まる石破茂・政調会長に聞いた。
外交においてはどの国も自国の国益の実現こそがその目的であり、他国の利益など顧みない。では新たな超大国として膨張している中国はどのような「国益」を念頭に行動しているのかそれを理解、認識せずに、東アジアの安全保障の未来図を描くことはできない。
その意味で、民主党政権が外交、安全保障において、全く話にならないレベルであることは、明らかだ。
尖閣諸島沖での漁船衝突事件は、日本の法秩序、法執行に対する明々白々たる挑戦だったにもかかわらず、総理大臣も内閣も責任を那覇地検に押し付けた。本来であれば逮捕・起訴し、公務執行妨害を司法の場で裁くべきであり、仮に釈放するにしても、内閣の長たる総理自身が「私の責任において判断した」と明言しなくてはならなかった。
日本国憲法は、外交関係の処理は内閣の職務だと定める。その職責から逃げ出したのである。
また、現在の東アジアにおける差し迫った最大の脅威が朝鮮半島に存在することは衆目の一致するところだが、北朝鮮による延坪島砲撃についても、菅総理は「情報収集に万全を期す」などということしか発信できなかった。
中国に対して「北朝鮮への働きかけを求める」と言っただけで、中国が働きかけるはずはない。
中国を統治しているのは「マルクス主義」ではない
私は、中国という国を統治することは、日本を統治するより何十倍も難しいと思っている。
人口は、実際はもっと多いだろうが13億人と言われ、少数民族は50に及び、14の国と国境を接している。その統治の困難さは、これまで幾度となく王朝が交代してきた歴史が証明している。
現在は中国共産党という“王朝”が統治しているが、かつてその統治に有効だったマルクス・レーニン主義は光を失い、愛国主義、情報統制、経済発展などが統治の道具として用いられている。
本来、共産主義国家において存在するはずのない貧富の格差が拡大する中、一党独裁で政権交代もないため国民の不満は鬱積しており、これが爆発すれば共産党支配は崩壊する。不満解消のための経済発展は必然の選択であり、内外においてこれを可能ならしめるのが、「国軍」ではなく「共産党の軍隊」たる人民解放軍である。
北朝鮮についても、中国の立場で考えれば、最悪のシナリオは「北朝鮮が暴発する」という事態だ。大量の難民が中朝国境から中国側へ流れ込んでくるであろうし、仮に「統一朝鮮」がアメリカの同盟国という形で誕生したら、そんな国と国境を接することは困る。かと言って北朝鮮が支配を広げる形での統一朝鮮の誕生も望ましくない。中国は、あれだけ支援した北ベトナムがベトナム統一後にどうなったかをよく覚えている。
結局のところ、“金王朝”たる北朝鮮が、たとえ核を持ちながらでも存続することが、中国にとっては望ましい状態となる。
だから中国は北朝鮮を支え続け、北朝鮮もそのことを百も承知でいる。
そういった前提や認識を理解せずに中国に対して「北朝鮮への働きかけを求める」と言ったところで、中国が動かないのは当然なのである。
そこで逆説的な発想をすることが必要になる。すなわち、中国の持つ「懸念」を払拭するアプローチを考えるのだ。中国は自分の国のためにならないことはしない。
中国の懸念に対して、どう応えるのかつまり、難民の中国流入をどう防ぎ、統一後の朝鮮をどう構築していくのか。中国にとっての被害を最小限に抑えるには、どのような過程と結果が望ましいか。こうした交渉を本気で中国としない限り、この膠着状態は打開できない。
「民主がダメだから」という政権奪回ではダメ
もちろん、「一党独裁を続ける共産党のための軍隊」を持つ中国とそうした話をしていくためには、軍事力をバックに据えなくてはならない。それはつまり、我が国の防衛力と日米同盟が不可欠の基盤である、ということに他ならない。
李明博政権下で、米韓同盟は非常に強固になっている。これに比して、普天間基地の移設問題の迷走に端を発し、日米同盟は民主党政権になってから空洞化している。中国と本気で対話するためにも、日米同盟を速やかに再構築しなければならない。
そのためにも、集団的自衛権の行使について議論を詰め、結論を出すことが必要であると考えている。
通常の同盟関係は、互いを守る義務を負い合うことによって成立する。しかし、現在の日米安保条約は、そうはなっていない。アメリカは日本国の安全と、それに直結する極東の安全と平和を守る義務を負っているが、日本は自国を守る時にしか戦わない。集団的自衛権を行使する用意があることを、日本がアメリカに示せるかどうかによって、同盟の強さは全く変わってくる。
自民党は先の参院選のマニフェストにも、「集団的自衛権に正面から取り組む」と明記したが、この問題をきちんと議論しない限り、日本国のあるべき姿は見えないし、東アジアにおける脅威を取り除く方策も見出すことはできない。
集団的自衛権の行使のためにどのような法律が必要で、日米安保、日米地位協定はどう変わるのか、自衛隊法をどう変えていくのか。憲法との関係を整理し、こうしたことを世に問うていかなければならない。
仮に今、解散総選挙があれば、自民党は相当数の議席を取ることができるだろう。しかし、2009年の総選挙が「自民がダメだから民主に」という論理で動いたのと同じように、「民主がダメだから今度は自民に」という政権奪回であってはならない。選挙の時に「皆さん民主党はひどいですよね」と言って訴えかけるのではなく、外交・安保について「新しい日米同盟の在り方」をはっきりと世に問い、信を得なくてはならない。
私は小沢一郎氏という政治家と組むことはあり得ないと思っている。
それは、小沢氏の主張が「自衛隊を国連に差し出せ」などという荒唐無稽なものだからだ。小沢氏は国連のことを「世界政府=international government」だと考えているようだが、国連はあくまで「連合国=United Nations」であり、もともとは第2次大戦の戦勝国の集まりに過ぎない。日本が国益のために自衛隊を出さなければならない、と言った時に、中国が拒否権を発動したから出せない、などという事態を許容するなら、それはもはや国家主権の否定である。
そんなおかしな主張をする小沢氏を抱える民主党の、普天間に始まり尖閣の問題に至るまでの政権運営を見て、国民は外交・安保が重要であり、いかにこの分野における政府の無力が国益を損なうものなのかを実感し始めている。
選挙になった時、有権者の皆さんの関心事は、どうしても景気や福祉といったところに集中し、安全保障の問題は優先順位が下になってしまう。それは、日々の暮らしから遠いことだからある程度は仕方がない。しかし、我が国の安全保障政策の見直しに、これ以上の停滞は許されない。
聞き手/松田賢弥(ジャーナリスト)
谷垣総裁批判のつもりはないです。一応、念のため。
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