夫婦別姓は日本崩壊の序曲
“世界の潮流”は真っ赤なウソだった!
「夫婦別姓」ほか民法改正案は聞けば 聞くほど 「不倫の勧め」
(SAPIO 2010年5月12日号掲載) 2010年5月20日(木)配信 文=八木秀次(高崎経済大学教授)
20年以上も前から夫婦別姓を主張してきた福島瑞穂氏。しかし、その主張に耳を傾けると、必ずしも夫婦別姓制度を導入しなくても、問題は解決できそうなのだが……。
選択的夫婦別姓制実現のための民法改正案が国会に提出される模様だという。
法務大臣、男女共同参画担当大臣に熱心な夫婦別姓導入論者が就任したことに伴う動きだが、たしか夫婦別姓制の導入は、昨年8月の総選挙の際には民主党のマニフェストからも外されていたはずだが、と皮肉の一つも言いたくなる。
世の中には「そうしたい人がいるなら認めてあげてもいいのでは?」と思っている人もいるようだが、話はそう簡単ではない。
夫婦別姓の主張は、結婚した女性が職業上、旧姓をそのまま使いたいということから始まった。1988年、当時の国立・図書館情報大学の女性教授が職場で旧姓を使用できないということから、勤務先を提訴したことが一般の耳目を集めた。この裁判は98年、東京高裁で和解が成立し、女性教授は職場で旧姓使用ができるようになった。
要するに職場の慣行や労働法制などの見直しの問題で、何も民法を改正するような大げさな問題ではなかったのだ。それが民法改正にすり替えられたのは、この裁判の原告代理人弁護士に福島瑞穂氏ら確信犯的な夫婦別姓論者が加わったことによる。福島氏のすり替えの一例を挙げよう。
「私の知っている公認会計士の女性は、いま妊娠中なんです。ただ、事実婚なので、子どもを非嫡出子にしないために、いずれ籍を入れようと思っている。それでいま非常に困っているんです。なぜなら、公認会計士や税理士の事務所の場合、事務所名に戸籍名しか冠してはいけないということになっているからなんです。『福島瑞穂公認会計士事務所』しかできない。たとえば『“かもめ”公認会計士事務所』などにはできないの。
だから彼女も、いまは『○○さん』と言われているけれど、結婚して姓を変えると、事務所名も変えなければならない。かといってペーパー離婚は無理だし、板挟みですよね」(『婦人公論』03年2月7日号)
だから民法改正して夫婦別姓制を導入すべきだということなのだが、馬鹿を言ってはいけない。当時既に国会議員であった福島氏が取り組むべきは、弁護士事務所と同様、公認会計士や税理士の事務所も戸籍名以外の登録ができるように関係法規を改正することであって、何も民法を改正するような話ではない。実際、その後、公認会計士・税理士については旧姓で登録できるようになっている。
福島氏らがこのように、話をすり替えてまで夫婦別姓制を導入したいのには理由がある。最近でこそ、
「この問題で誤解されたくないのは、私たちが求めているのは『選択的』夫婦別姓であるということ。皆が別姓にすべきであると主張しているわけではありません。夫婦で同じ姓にしたい人にまで、別姓を強要しようということではないのです。(中略)多様な価値観が認められる社会の方が望ましいというのが基本にあります」(『日経ビジネスAssocié』10年2月16日号)
と自らの主張がささやかな要求であるかのように言うが、自由闊達に語っていた頃の福島氏の発言には本音が表われている。
「夫婦で別姓か同姓かを選ぶことができる夫婦別姓選択制とは何か? それは、ライフスタイルにおける自己決定権を持つことなんです。つまり、外の力に強制されることなく、自分で自分のことを決めることができるということ。(中略)私は、すぐにみんなが別姓を選ぶことはないと思うのですが、別姓を選ぶ自由があることで、結婚は個人と個人の結びつきになるでしょう。愛があれば結婚する、なくなれば離婚しても、別姓ならば摩擦が少ない……。結婚はとてもシンプルな行為になりますね。子連れ同士や高齢者の結婚など、オリジナリティのある結婚も増えるでしょうし、同性のカップルやシングルなど、いろいろな生き方があって当然、そんな時代になるでしょうね」(『LEE』96年2月号)
福島氏の言う「多様な価値観が認められる社会」とは、個人が「ライフスタイルにおける自己決定権を持つ」社会のことで、「外の力に強制されることなく、自分で自分のことを決めることができる」社会のことだ。結婚は「個人」と「個人」の結びつきに過ぎなくなり、離婚も容易、同性の結婚も認められる社会となる。家族道徳や倫理は存在しない社会だ。
「既婚は障害じゃない」と不倫出産のすすめ⁉
現在準備されている民法改正案には非嫡出子の相続差別の撤廃も含まれている。現在の民法は非嫡出子の相続分を嫡出子の半分であると規定しているが、嫡出子とは法律上の結婚をしている男女の間に生まれた子のことで、非嫡出子とは法律上の結婚をしていない男女の間に生まれた子のことだ。
典型は夫が愛人に産ませた子ということになるが、愛人の子は本妻との間に生まれた子の半分しか、父親の財産を相続できない。これは法律上の結婚を保護すると同時に、非嫡出子の福祉にも配慮した規定であり、最高裁もその立場に立っている。
この点について福島氏はかつて次のように非嫡出子の相続差別の撤廃を主張した。
「結婚をしていようがいまいが、心はどうしようもなく動いていく。結婚した後だっていろんな出会いがあるし、素敵な人に出会うことだってあるだろう。また、人を好きになるときに『未婚』と『既婚』を振り分けているわけではない。年上の人と恋愛すればその人に『家庭』がある確率は高くなるし、『いい男』には『決まった彼女』や『妻』がいることが多い」(『婦人公論』94年7月号)
「(非嫡出子の法定相続分の差別は)非嫡出子を産むまい、妊娠しても中絶してしまうしかないというように、親の生き方を左右するものであるということができる。(中略)非嫡出子差別は、親のライフスタイルについての自己決定権や幸福追求権を侵害するものでないのか」(『結婚が変わる、家族が変わる 家族法・戸籍法大改正のすすめ』日本評論社、93年)
福島氏らは「夫婦別姓を選択できるのが世界の潮流」などとも言うが、これもまったくのでたらめだ。世界の国々はそれぞれの伝統に基づいて家族の姓を決めている。
大きく分けると、(1)夫婦・親子同姓の国(インド、タイ、日本)、(2)同姓を原則とし旧姓の付加(結合姓)も認める国(オーストリア、スイス〈子は父の姓〉)、(3)同姓を原則とし例外的に別姓を認める国(ドイツ)、(4)妻が夫の姓を付加する国(ペルー、ブラジル、イタリア・アルゼンチン〈子は父の姓〉)、(5)慣習法上、妻が夫の姓を称する国(イギリス、フランス〈結合姓、旧姓使用も可〉)、(6)夫婦完全別姓の国(スペイン〈子は父母の結合姓〉、カナダ・ケベック州〈結合姓も可〉、サウジアラビア・韓国〈子は父の姓〉)、(7)別姓を原則とし同姓や結合姓も認める国(中国〈子の姓は別姓の場合選択〉、オランダ〈子は父の姓〉)などだ。
福島氏らが唱えているような、原則・例外の区別もなく、同姓も別姓も等価値という「選択制」を採用しているのはスウェーデンくらい。その家族の基本形や家族倫理を否定し、いわば「何でもあり」となったスウェーデンで、家族崩壊の末に寄る辺を失った子供たちがどれほど非行や犯罪に走り、社会問題になっているかについては専門家が既に指摘しているところでもある。そうなれば、もはや個人の問題ではない。社会全体の問題となる。
果たしてこれでも「そうしたい人がいるなら認めてあげてもいいのでは?」ということになるのかどうか。ささやかな要求と思わせる仮面の下にどんな過激な主張が隠されているかを見抜かなければならない。
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