シーシェパードの暗部
こういうのをエコテロリストと言うのだろうか。
「抗議への弾圧」を演出するつもりだろうがそうはいかない
日本当局が狙うシーシェパード“無法者船長”の知られたくない過去
(SAPIO 2010年4月14・21日号掲載) 2010年4月29日(木)配信
文=山田吉彦(東海大学教授)
日本の調査捕鯨監視船に体当たりした船の元船長が日本で逮捕された。しかし海洋に詳しい山田吉彦・東海大学教授は「この逮捕劇も含めて彼らの作戦」と警戒する。
≪シーシェパードの疑惑≫
3月12日、調査捕鯨監視船第2昭南丸は2隻の海上保安庁の巡視船に挟まれ晴海埠頭に着岸した。船内にはシーシェパード(以下SS)のピーター・ベスーン元船長がいた。海上保安庁のベテラン職員も「一容疑者にこれほどの厳戒態勢は初めて」というほどのものものしい警戒は、国際社会の反応を意識した政府の意向であり、船舶侵入罪の被疑者としては異例の扱いだ。
検察庁は国際的な取り調べになれた検事を揃え、SS対策に本腰を入れている。実は、ベスーン容疑者には検察庁の注意を引く疑惑があるのだ。それについては後述するとして、まず事件の概要をさらっておこう。
新年早々の1月6日、南極海で調査捕鯨監視中の第2昭南丸にSSの所有するアディ・ギル号(以下A号)が衝突し大破する事故が起きた。
2月15日、A号の元船長ベスーンは第2昭南丸に水上バイクで接近し、第2昭南丸船長に対する3億円損害賠償要求の書簡を持って乗り込み、船長権限により身柄を確保された。日本への入国と同時に海保に逮捕され、取り調べが進んでいる。
しかし、今回の逮捕劇は、SSにとっては「思う壺」というところだ。
実は当初、衝突事故はSSにとって予想外の反響を呼んだ。A号はバイオ燃料を使った高速航行を売り物にした未来型高速船で、建造費は約250万ドル。「環境に優しい超高級船」が捕鯨船にぶつけられて大破というストーリーは、それだけで注目を集めるはずだった。しかし、SS側のカメラではあたかも第2昭南丸がA号にぶつかって行くように撮影されていたものの、たなびく旗や波風の様子から自らぶつかって行くのがバレてしまった。第2昭南丸の撮影した映像にはA号の航跡も映っていた。そして、国際世論はSS批判に傾いた。
1月8日の豪シドニーモーニングヘラルド紙は「我々捕鯨の再開に反対するものでも今回の行為は理解できない」と批判的な論説を載せた。世論調査でもこれまでSSを支援していた豪州国民の6割が事故の原因はSSにあるとしたのだ。
SSのポール・ワトソン代表が、豪州国民から支持を失った責任をベスーン容疑者に負わせたことは想像に難くない。起死回生の策とし、ベスーンは第2昭南丸に乗り込んだのだ。
そしてこの乗り込み事件により、豪州国民は反捕鯨活動に再び目を向け、ラッド政権は、岡田外相に対し調査捕鯨の停止を国際司法裁判所に提訴すると述べ、国民に対し反捕鯨の意思を明確に示した。SSとしてみれば逮捕は格好の宣伝となった。そして「今年の南極海での活動は過去6年間において最高の成果」と勝利宣言を行なったのである。
≪ケーブルTVで反捕鯨人気番組≫
SSのスポンサーとしては「利益の一部を直接的な行動を行なう草の根の環境保護グループを支援するために寄付しています」とHP上で示すアウトドア用品のパタゴニアなどが知られているが、著名な支援者は多い。A号は米国の実業家アディ・ギル氏が寄付した100万ドルをもとに購入されたことからその名がついた。
一部の支持者だけでなく、SSの活動は米国のケーブルテレビ局アニマルプラネットで放送され高い視聴率を得ている。番組のタイトルは「ホエール・ウォーズ」。調査捕鯨船と激しく戦わなければ番組にならないということだろう。目に入ると失明の恐れがある酪酸の入った瓶を投げ込み、レーザービームを船員に目掛け照射する。今年は、ロケットランチャーの弾頭にガラス瓶をはめ込み銃撃してきた。また、船の航行能力を奪うため、ロープをスクリューに巻き付けようともした。荒天の南極海で船の制御能力を失うと大事故につながる可能性もあるのだ。そして、とうとう船体衝突事故を起こしたのである。
こうした活動は、日本の沿岸部で捕獲規制の対象外の種のクジラを数量制限のもとで獲っている漁民たちの生活をも恐怖に陥れている。和歌山県太地町では、SSの活動家により網を切られるといった実質的な被害が起きたが、それよりも漁民が受けた精神的苦痛は大きい。2003年、SSは同町の捕鯨関係者の氏名と住所をホームページ上に公開し、抗議の手紙を送るように訴え、誹謗中傷の手紙が送られるようになった。「皆が白人の姿を見るとSSかと怯え、猜疑心は子供の間にまで広がっている」と同町の漁業関係者はいう。
そしてこの太地町こそ、今年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー部門でオスカーを獲得した映画『ザ・コーブ』の舞台である。欧米の映画人の中には、「隠し撮りでありドキュメンタリーとしての適性に欠ける」という批判もある。ここで行なわれているイルカの追い込み漁を取り上げ、殺戮行為と断定する映画だ。撮影隊は立ち入り禁止区域に侵入し、イルカ漁を妨害しては怒った漁師たちの顔を映し「ジャパニーズマフィア」と罵る。暗視カメラで漁全体に秘儀のイメージを演出し、海がイルカの血で赤くなるシーンをことさらに強調したこの映画の出資者には、SSも名を連ねている。
筆者はたびたび太地町を訪れているが、多くの漁業関係者は「網を切られるなどの実質的被害より、長年の歴史と伝統に基づいた漁を、殺戮・犯罪と扱われることのほうが辛い」と語る。小型魚類を多量に捕食するイルカや小型クジラの捕獲は同町の漁民にとっては生きる糧だ。
こうして作られる国際世論に、日本はどう対抗すればいいのか。まず各国から不透明性が指摘されている調査捕鯨の再検討がある。赤松農水大臣は南極海での調査捕鯨による捕獲頭数の削減を示唆した。IWCでは、調査捕鯨の段階的な廃止の見返りとして沿岸捕鯨の一部容認を提案する動きがある。
日本政府の後手に回る対応には、欧米諸国の動向を重視する外務省と、調査捕鯨など水産政策の継続にこだわる水産庁という縦割り行政の弊害を感じる。いっそノルウェーのように正々堂々と沿岸捕鯨を復活させた方が、税金も使わずに済み、漁民の生活の安定にもつながるのではないか。
そしてもう1つ注目したいのが、冒頭で触れたSSのベスーンに対する疑惑の解明である。ニュージーランド国籍をもつベスーン容疑者には表に出したくない過去がある。07年3月20日のニュージーランドヘラルド紙によると、ベスーンは中米のグアテマラ沖で漁船と衝突し、3人の漁民が海に転落、そのうち1人が死亡する事故を起こしている。このときの船がA号(当時の名前はアース・レース号)であり、船主がベスーンだったのだ。元来SSのメンバーではなく、多額の賠償金を払うために船をSSに売却し、雇われ船長となっていたようだ。
船舶の専門誌によると、A号の船体の素材は複合カーボン繊維と鋼鉄の5倍の強度をもつ新素材ケブラーであり、これは第2昭南丸の鋼鉄より硬いはずだ。しかし、衝突時の映像を見るとベニヤの上をカーボン繊維で被ったもののようで、衝撃を受けると粉々に砕けてしまった。本来の素材であればあり得ない破損状況である。また、高額のエコ・エンジンを積んだA号を海に放置するなど考えられないことである。つまり、そもそもA号は衝突するために改造されていた可能性があり、「高額なエコ船」を装い、不当に「3億円の損害賠償」を得ようとした疑いがある。そうなれば、SSの行動は「環境テロ」どころか金銭詐取が目当ての暴力行為であり、母国ニュージーランドの反応も、スポンサーからの信頼も失墜することになる。ベスーンの容疑については徹底した解明が待たれる。そしてSSの罪に対しては毅然とした態度を貫き、放置すべきではない。彼らの次の狙いはマグロの禁漁なのである。
異議があると言うならSSは、支那の上海臓器狩り万パクリへの抗議活動をこそ行なうべきである。
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