【支那】死刑
獄中243日 体験者が語る「過酷刑務所」
中国、知られざる死刑の実態
(週刊朝日 2010年04月23日号配信掲載) 2010年4月15日(木)配信
中国で死刑判決が確定していた4人の日本人の死刑が執行された。罪名は麻薬密輸。世界で最も死刑が多いとされる中国で人の命は「麻薬」より軽いのだ。獄中で243日を過ごしたNGO活動家が「死刑大国の実態」を証言した。
4月9日午前8時半(日本時間同9時半)、武田輝夫死刑囚(67)=愛知県出身=、鵜飼博徳死刑囚(48)=岐阜県出身=が収容されている中国・遼寧省にある大連拘置所前の道路が通行止めとなり、ものものしいバリケードが張り巡らされた。警察車両を先頭に7、8台の車が門を出て、数百メートル先の処刑施設に向かった。
現地で取材した記者によると、施設内には地元で“注射車”と呼ばれている救急車のような死刑執行車両が待機。処刑は薬物注射で行われ、(1)意識をなくすチオペンタール(2)呼吸を止める筋弛緩剤(3)心臓を止める塩化カリウムが車内で粛々と投与された。
同時刻、瀋陽拘置所に収容されていた森勝男死刑囚(67)=福島県出身=の死刑も同様に執行された。
6日には赤野光信死刑囚(65)=大阪府出身=の死刑がすでに執行されていたので、わずか4日の間に、日本人4人が“注射車”の露と消えたのだ。
中国ではかつて主に銃殺刑が行われていたが、96年に注射執行が導入されて以降、切り替わっていったという。“注射車”が量産され、大連の次は瀋陽などと日々移動しながら死刑が執行されているのである。
注射に切り替わった“理由”として、アムネスティ・インターナショナルの報告書(2006年版)に、こんな内容の記述がある。
《注射で執行した方が臓器を摘出しやすい。2005年7月の生体移植国際会議で、黄潔夫衛生部副部長は中国で移植に使われる臓器の多くが死刑囚のものであることを認めた。06年3月時点で、移植臓器の99%に達している可能性があると専門家は推測している》
死刑囚からの臓器の移植について、中国の移植外科医の一部からは関与に戸惑う声もあるという。
《裁判所の許可が下りれば、医師は処刑場へ行き、無菌仕様の小型トラックで待ち、処刑後すぐに臓器を入手できる。処刑された死刑囚は死ぬまでに時間がかかるため、精神的なショックを受ける外科医もいる》
死刑囚からの臓器移植は国際的な批判が集まった。中国政府は06年7月、「提供者が書面で同意した時のみ臓器摘出可能とする」という新規制を施行した。
だが、アムネスティは「ザル規制」と指摘している。今回、処刑された日本人4人の遺体はどのように処置されたのだろうか。
「日本人死刑囚から臓器摘出をすれば、国際問題に発展するのでさすがにやりませんでした。死刑直前、死刑囚らの親族、知人が面会に来ていたので遺体はすぐに荼毘にふされ、骨つぼに入れ、引き渡されたそうです」(外務省関係者)
04年に拘束された武田死刑囚は、日本では強盗団のボスとして知られていた。
数十人で構成される日中混成強盗団を率い、逃亡先の中国・福建省で03年3月、週刊新潮のインタビューを受け、「俺を捕まえてみろ」と挑発した。
だが、すぐに中国当局に拘束され、獄中で、今年7月に時効が迫る東京都八王子市の「スーパーナンペイ大和田店」で女性3人が射殺された事件について、「知人の中国人がやった」とほのめかした。
警視庁が昨年9月、大連で武田死刑囚から事情を聴いたが、「話はデタラメ。再聴取の予定はなかった」(警視庁関係者)。
武田死刑囚だけ親族が面会に来なかったという。
処刑された4人はいずれも中国から日本へ覚せい剤を密輸しようとして逮捕され、公判で起訴内容を大筋で認めていたものの、「刑が重すぎる」と訴えていた。
日本では麻薬密輸は懲役7~10年の犯罪だが、中国刑法では50グラム以上で死刑になる可能性があるのだ。
「私と同じ房にヘロイン密輸で逮捕され、懲役18年の判決を受けた男がいました。その共犯2人(いずれも女性)に死刑判決が下ったと知った時、中国の怖さを思い知りましたね」
こう振り返るのは、北朝鮮からの脱出者を支援する非政府組織(NGO)「北朝鮮難民救援基金」の野口孝行さん(38)だ。
03年12月、野口さんはベトナム国境に近い中国・南寧市のホテルで、元在日朝鮮人の脱北者2人と一緒に公安当局に拘束された。
その後、「密出入国幇助罪」で有罪判決を受け、計243日間、獄中で暮らした体験を持つ。
今回、中国で処刑された4人は拘置所の雑居房で執行直前まで暮らしていたが、野口さんも同様の雑居房に収監されていた。過酷な暮らしをこう振り返る。
「10畳ほどの雑居房に4人が押し込められ、床より60センチほど高い寝台スペースは板張りで、そこに4人の大人が川の字に並んで寝てました。寝具は不衛生で様々な体臭が染み込んで使い古された“紙ふとん”。トイレは丸見えで風呂はなく、体は水道のホースで洗い、冬は外気が水温より低いので水をかぶると湯気が出た」
冷暖房はなく、寒さで眠れないときもあったという。
「食事は一日2食で、水っぽい白米にチンゲンサイなどの野菜スープが定番です。おカネを出せば、手羽先、犬肉、インスタントラーメンなども注文できましたが、不衛生さ、精神的ストレスで食事もままならず、私は20キロやせました」
野口さんは中庭で中国人の死刑囚を目撃したことがあったという。
「死刑囚は両手に手錠をかけられた上、10キロはあるのではないかと思われる丸い鉄製の重りがチェーンでつながった足かせを、両足にはめられていました。その姿はまるで映画を見ているようでした」
国連報告によれば、《死刑囚は、手錠と足鎖を食事中やトイレに行く時までも毎日、24時間つけなければならない》という。
殺人、強姦、汚職、脱税などでも死刑判決が出るが、裁判もカネ次第という不透明さがあるという。
「裁判所、検察とコネのある地元の有力弁護士にカネを出して頼めば、麻薬密輸などでも減刑を勝ち取ることは可能です。帰国後、中国人から賄賂のことを教えられました」(野口さん)
死刑執行された赤野死刑囚は最後まで、「いい加減な裁判で死刑はたまらない」と訴えていた。
裁判について野口さんはこう証言する。
「当局に拘束された時、最初に派遣されてきたのは桂林空港にいる観光ガイド専門の日本語通訳でした。法廷での通訳は大学4年の学生で惨憺たる状況でした。ただ、幸い私の弁護人は日本の大学に留学した経験もある人で問題はなかった。だが、支援がなければ、日本語ができる弁護士を雇えません。現地の国選弁護人だけでは、まともな裁判を受けるのは難しい。その過酷さを、日本人は知るべきです」
アムネスティ日本によると、中国では09年、2千人前後の死刑が執行されたと推計されている。
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