NHKの深い闇
相次ぐ訴訟に隠蔽工作文書まで流出
相次ぐ訴訟に隠蔽工作文書まで流出「JAPANデビュー」問題の収拾困難=井上和彦
(SAPIO 2009年11月11日号掲載) 2009年11月19日(木)配信
文=井上和彦(ジャーナリスト)
従業員数・予算規模において日本最大の放送局、NHK。その規模は英国放送協会(BBC)と並ぶ世界有数の巨大組織だが、目下その屋台骨を揺るがしているのが、ご存知、NHKスペシャル「JAPANデビュー 第1回アジアの〝一等国〟」をめぐる騒動である。騒動は、番組ディレクターらによる台湾再訪と取材対象者への「隠蔽工作」を本誌8月19・26日号が明らかにしたことで、新たな局面を迎えた。さらに、前稿をレポートした井上和彦氏によれば、その後もNHKの工作の実態が次々と暴かれているというではないか。追い込まれたNHKに打つ手はあるのか。
さる6月22日、NHK「JAPANデビュー」のディレクターとチーフ・プロデューサーが台湾を再訪し、取材対象者の柯徳三氏宅で、氏のNHKに対する抗議の撤回をお願いしたことはすでに書いた。その後産経新聞10月6日付が報じたとおり、驚くべきことにその際、NHK側はあらかじめ用意した抗議撤回の文書に署名を迫っていたというのだ。ディレクターは、自分の子供が一連の騒動が理由で脅迫されるので警察に保護願いを出した、と涙ながらに訴えたという。この泣き脅しに負けて、NHKが用意した文書にサインしてしまった柯徳三氏は、後日こう語っている。
「子供が学校に行く時に名札を付けて行くと危ないと。しかし私は半信半疑ですよ。彼が何をやったか、日本の国民で知っている人がどれくらいおるのか?」
実はこのとき、柯徳三氏宅に偶然にも同じく「JAPANデビュー」に出演した藍昭光氏が居合わせていた。NHKの二人は、抗議撤回の文書を柯徳三氏の分だけしか用意してこなかったので、慌ててチーフ・プロデューサーが手書きして藍昭光氏に署名を迫った。それが以下の文書だ。
《NHKスペシャル「アジアの〝一等国〟」の内容に関して、NHKに対し「抗議と訂正を求める要望書」に署名・捺印しましたが、これはNHKの番組で使われた4つの用語についての私の意見です。事実関係や用語に関しては、NHKの説明を聞き、納得しました。/なお、私はNHKに対して抗議する気持ちはありません。/2009年6月 日》
ところが、藍氏は、その場での署名を断わったため、チーフ・ディレクターは、無理やりその手書きの文章を藍昭光氏に手渡して「明日、ご自宅へ伺いますので署名していただけますよう宜しくお願いします」という主旨のことを告げてその日は別れた。
そして翌日、NHKは、藍昭光氏に電話を入れた。彼らは、藍昭光氏も昨日手渡した抗議撤回の文書に署名してもらったものと思ったに違いない。藍氏の自宅に〝署名入りの文書を〟取りに行くと告げたところ、藍氏は、「私はこのようなものに署名するつもりはない!」ときっぱりと断わったのである。
他に私が確認したところ、同番組の中で改姓名のことを誘導尋問された張俊彦氏にも、NHKから面会の申し入れがあったようだが、きっぱりと申し入れを断わったという。
ちなみに、文書に示された「4つの用語」とは以下の通り。
①「人間動物園」 日本統治時代にクスクス村=高士村に暮らすパイワン族の人々が日英博覧会で民族舞踊や暮らしぶりを披露したことを表現。
②「日台戦争」 日本の台湾統治当初の抵抗運動のことを、日本と台湾の国家間の戦争があったかのように表現。
③「漢民族」 日本統治時代に、日本は台湾人の漢民族としての誇りを奪ったと紹介(柯徳三氏らは自分は漢民族ではないと主張)。
④「中国語」 中国語が台湾に入ってきたのは戦後のことにもかかわらず、番組では日本統治時代に台湾人が中国語を使うことを禁止したと解説。
さて、このうち「人間動物園」という用語が、いまNHKの首をさらに絞め上げる原因となっている。
6月のこと。「人間動物園」とされたパイワン族の高士村(クスクス村)にNHK職員を名乗る台湾人が来訪。侮辱されたと怒りを顕わにしていた取材協力者の陳清福氏のもとを訪ね、日英博覧会についての話を聞いて帰った。その男性はなぜか陳清福氏に名刺を渡さなかったそうだが、そのとき、陳清福氏は番組に登場した許進貴氏と高許月妹氏らと共に、NHKに対して抗議文を提出したことを伝えたという。するとその男性は、抗議文を預かっているパイワン族の長老・華阿財氏に面会を申し入れたのだった。そして男性は、華阿財氏に電話で、その抗議文を自分が預かってNHK台北支局に届けて差し上げましょうと申し入れたというのだ。謎の男性の正体は、JAPANデビュー台湾取材のコーディネーターだった。
しかし残念なことに、その抗議文はすでに送付された後だった。その内容はこうだ。
《先週、NHKの番組「JAPANデビュー」において、台湾での取材から『パイワン族の人々を人間動物園としてイギリスの日英博覧会で見世物にしたのです』という不適切な表現を放送したと知り、非常に驚いています。高士村の人間として、非常に辱めを受けたと感じております。(中略)高士村の人々が共有する博覧会という美しい記憶として後世に語り継がれてきたものを、なぜ突然「人間動物園」という見方に変えてしまったのか。大変理解に苦しみます。
/我々村民一同は、上述の真相を明白にすることを強く求めるとともに、日本の関連当局が速やかにNHKを招請して再調査し、事実を明らかにし、報道することを希望します。(中略)西暦2009年6月21日》
答えになっていない NHKの回答書
この抗議文を受け取ったNHK側は、慌ててエグゼクティブ・プロデューサーから回答を送らせた。今回、本誌はその回答書を入手した。
《「人間動物園」とは、人間を檻の中に入れたり、裸にしたり、鎖でつないだりするということではありません。また、虐待することが目的ではありません。当時のヨーロッパの価値観では「劣った野蛮な民族」と考えられていた人たちを、「文明化」させていることを宣伝する場所でした。日本は、その考え方と方法をまねることで、西洋列強と同じ「一等国」になろうとしました。この当時、世界には民族の違いに基づいて「階層」があると日本も考えるようになっていました。自分たちは階層の頂点にあって、その下にアジアの諸民族がいるという世界観が根づきます。そのあらわれのひとつが「人類館事件」であり、「日英博覧会」でした》
要するに、当時日本政府がパイワン族による実演を「人間動物園」と表現した論拠は示せなかったのである。というより、この回答は、「JAPANデビュー
アジアの〝一等国〟」の強引なシナリオをそのまま繰り返しただけではないか。
そして、こう結論づけている。
《パイワン族の方々、高士村の方々の尊厳を損なうような意図は全くないということを、ぜひご理解いただきたいと思います》
答えになっていない。
パイワン族の人々は、「非常に辱めを受けた」とNHKに抗議しているにもかかわらず、NHKは、自分たちの正当性をただ一方的に訴えるだけで、傷つけられたパイワン族の人々の心情を理解し、真摯に詫びようという姿勢は微塵もない。
パイワン族の人々は、こうしたNHKの不遜な態度に憤慨し、ついに高士村を中心に、部族あげての集団訴訟に発展したのである。
10月6日、パイワン族の原告団の代表・華阿財氏ら4名が来日し、東京地方裁判所に訴状を提出した。
華阿財氏は、語気を強めていう。
「NHKは、我々パイワン族の尊厳を傷つけておきながら、一言も詫びようとしない。こんなことは絶対に許せません!」
そしてこの日、原告団一行は、どうしても行きたかった靖国神社を参拝した。
華阿財氏らの親族は、大東亜戦争で戦死して靖国神社に合祀されていたのだ。
昇殿参拝のときに親族の御霊と対面し、突然嗚咽を漏らしはじめた華阿財夫人の、包聖嬌さんはいう。
「私の叔父さんが、靖国神社で日本の人々によってこんなに大事に祀られていることにたいへん感動しました。このことは台湾に帰ったら、亡くなった母の墓前で報告したいと思います」
靖国神社を去る時、包聖嬌さんは叔父さんに別れを告げるべく本殿に向かって大きく手を振り、そして深々と頭を垂れたのである。
NHKとJAPANデビュー番組制作者よ!
こうした感動を伝えることが、いやしくも公共放送局の使命ではないのか!
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント