民主党追い風の中、輝いていた「小沢門下生」ブランドが、一転足かせに。
身体検査を乗り越えることは、果たしてできるのだろうか。
師弟の言葉は、鮮やかに呼応した。
「石川(知裕衆院議員)も(東京地検に)ありのままを話してくればいい」
小沢一郎民主党代表が記者団に語った夜、それまでマスコミにほとんど露出しなかった石川氏は参考人としての事情聴取に応じたことを公表し、「知るところを正直に述べてまいりました」とコメント。「石川議員を事情聴取へ」という新聞報道が出てから2日後だった。
政治資金規正法違反で逮捕された大久保隆規容疑者も石川氏も、小沢氏の門下生。石川氏は2000~04年まで陸山会で会計責任者だった大久保容疑者の補佐役をつとめていた。3日の小沢事務所の強制捜査の時も小沢氏の側にいたという石川氏は門下生として、「正面突破」作戦に追随する形になった。
小沢氏の秘書をつとめることは、政治家としてステップアップするための「登竜門」だった。今年の総選挙には石川氏をはじめ、自民、民主あわせて少なくとも5人の小沢秘書経験者が立候補を予定。07年参院選で当選した藤原良信議員も秘書出身だ。
野武士的な小沢門下生
秘書から政治家への転身はよくあるパターンだが、小沢氏秘書出身者は「軍団」とも称されるほど、異質のブランドイメージを持つ。政治評論家の板垣英憲さんはこう語る。
「小沢氏は自宅に書生を住まわせて育てるという、戦前タイプの政治家。給料を払いサラリーマン的議員を育てる松下政経塾と違い、小沢氏の育てる議員は『野武士的』と言えます」
石川氏は典型的な書生出身。早大在学中から東京の小沢邸に住み込み、朝4時起きで洗車から庭掃除まで雑用をこなしながら秘書になった。小沢軍団のオヤジへの忠誠心は折り紙つきだ。衆院選に立候補経験のある元秘書を知る人物はこう語る。
「あの事務所は小沢さんへの尊敬の念がすごく強い。小沢さんが日産の高級ワンボックスカーに乗っていた時期、私の知る秘書も同車種に乗っていた」
ある衆院議員が小沢氏や小沢氏秘書出身者らと会食した時のこと。小沢氏が到着する前についた元秘書たちはメニューを見ながら、「これは小沢さんは嫌いだろう」と、食事のことをしきりに気にかけ、さらに小沢氏が到着する前に食事をはじめようとせかした。
理由を尋ねると、「小沢さんは自分の到着を待たれると機嫌が悪くなるんです」。
秘書を辞めて一本立ちしたはずの人間がここまで気を使う。この議員は同情したという。
天国から通夜状態に
これと見込んだ秘書には、自分の政治哲学を教えこんで政治家への道を開いてやる。
「『あなたの言う政策だったら信用する』と言われるようになるまで有権者を回れ」
石川氏が小沢氏から教わった政治哲学だという。05年に中川昭一前財務相を敵にまわして北海道11区から出馬。約2万3千票差で敗れたが、その後繰り上げで復活当選を果たした。
彼を知る民主党関係者は「若いのに根回しがうまい。議員立法を通すのにも自分で事務作業をし、先輩議員へ説明に回る」と話す。自身は独身だが、議員会館には自分の秘書のためにベビーベッドを設置した。「腰が低くて気がきく。秘書をどなることもない」(知人)
もうろう会見の中川氏を追い込んだ矢先の小沢氏陣営のスキャンダル。関係者は「天国から通夜状態に一転した」という。
今回の件でも参考人としての聴取のはずなのに、ある全国紙は「出頭を要請」とほぼ容疑者扱いの表現を使った。イメージ悪化は避けられない。
口をつぐむ門下生たち
来る選挙にとって追い風だったはずの小沢ブランドが一転したことで、石川氏以外の小沢事務所出身者の口も重い。菊田真紀子議員事務所は「うちとしてはこの件に関して改めてコメントさせていただくことはない」。
当選2回で再起を期している樋高剛前衆院議員も、「話をする時間がありません」(事務所)と取材を断った。「選挙への影響はありません。どうなっているんだというお叱りの電話さえありませんよ」と冷静を保つ。
ある秘書出身者は「自民党への不信が根強い地方部では、今回のスキャンダルであっても逆風にはなりえない」と強気に分析するが、小沢逆風をもろに受けた候補者もいる。
大久保容疑者の前任者として陸山会の資金管理をしていた高橋嘉信氏は小沢氏と決別し、小沢氏の選挙区岩手4区に自民党から立候補を予定していた。だが自民党は彼の公認を見送る可能性も出てきたという。
ある関係者は言う。
「ゼネコンからの集金方法を考え出したのは彼だと言われる。何で自民党公認になったのかと思うくらいですよ」
01年から「小沢一郎政治塾」をもうけ、秘書以外にも何人かの「教え子」を議員として送り込んできた小沢代表。今回のスキャンダルは、教え子に逆風を乗り越えさせる最後の「卒業試験」なのかもしれない。
編集部 田村栄治、福井洋平
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