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2009年2月 1日 (日)

無法国家2

「罰金20万払って出てこられるのであれば、それでいい」

――そうなると、「本当はやっていなくても、自白をしてしまう」ということが起こる訳ですね?

井上   正直なところ、「罰金20万払って出てこられるのであれば、それでいい」となってしまうこともあるんです。
   示談金は、多い時だと200万。社会的地位がある人ほど、「500万払ってでも示談したい」と、女性側からの訴えを取り下げてもらいたいものです。
   「500万だったら無理だけど、罰金の20万円だったらすぐ払う」みたいな人は、いっぱいいると思います。従って、「痴漢冤罪」は、相当数いるのではないかと思います。
――この犯罪の場合、示談して女性側が訴えを取り下げるとどうなるんでしょう?「チャラ」になるんですか?

井上   痴漢は親告罪ではないのですが、女性側が訴えを取り下げるのであれば、検察としては、もはや起訴する価値はないでしょう。起訴されなくなる、と思って間違いないでしょう。
――逆に、否認を続けると、どうなるんですか?

井上   起訴されます。女性の言い分が余りにも変で「荒唐無稽」ということになると、起訴されないこともあるのですが、「あり得る」という可能性があるだけで、起訴されてしまいます。
   女性の証人尋問と被告人質問をして、有力な証拠がなければ、二人に言い分を比べて、裁判官は「こっちが勝ち」とやるのですが、過去の例だと、ほとんどが有罪です。徹底的に否認して争っていると、「反省してない」と、量刑が重くなってしまう。
――やっていないことは、反省のしようがないですよね(苦笑)。

井上   裁判官のセリフまで決まっていて、「可憐な女子高生が羞恥心を押して『痴漢された』と言っているのだから、間違いない。証拠上明白であるにもかかわらず、被告人がシラを切りとおしている。反省の心は微塵もない」といった具合です(笑)。判決文は、起承転結が、ちゃんと決まっているんです。
   (手を下着の)中まで入れたとされた場合は、強制わいせつ罪で起訴されることがあって、今言ったようなことを判決文に書かれると、懲役の実刑になってしまいます。前科もない普通のサラリーマンが、突然刑務所に1年間入る、ということになってしまう。条例違反であれば罰金20万ですみますけれど。
   否認すると「反省していない」になってしまうので、強制わいせつの場合「無罪か実刑か」になります。実刑判決を受けると、社会的には終わりです。会社はクビになってしまいますし、社会的に復活不能ですよね。引っ越しでもして、全く別のことでも始めない限り無理でしょう。

女性の言い分は信用できる、となる理由

――物証がなくて証言しかない場合、どうして「女性側の証言は正しい」と判断されるのでしょう。

井上   痴漢でなくても、二つの意見が対立する「水掛け論」の場合、刑事でも、裁判官が元々「どうせ有罪だろう」と思っているんですよ。実際、司法統計を見ると、起訴された事件の99.9%は有罪になっています。それが現実です。はっきり言ってしまえば、審理なんかせずに有罪判決を書いてしまっても、統計上はほぼ間違いはない。ですから、裁判官の目の前に新しい事件(起訴状)がやって来ると、まず「有罪の目」で起訴状を読んでしまう。統計というのは圧倒的な重みがあって、「こいつ、こんなことやったのか」と思いながら読んでしまう。仕事が速い人は、その場でパソコンを立ち上げて、有罪判決の下書きまで作り始めますよ。例えば懲役であれば、「1年」とか「1年6か月」とか、数字の部分だけ空欄にしたものを作っちゃう。仮に無罪になったとすれば、この作業は無駄になりますが、それはまずありませんね。
――やっぱり、無罪を勝ち取るのは難しいのでしょうか。

井上   統計的にほとんどが有罪ですから、よほど有罪にするのを妨げるような要素がない限り、有罪ですね。例えば再現実験をやって、「物理的に手が届くはずがない」といったことが立証されるなどしないと、無罪は無理でしょう。
 そういう決め手がない限りは有罪だと、裁判官が思っているんです。だから、5分5分だと、有罪になってしまう。
――冤罪は多いと思いますか?

井上   そうですね。色々調べてみて、「こんなに適当な事実認定なのか!」と、びっくりしましたね。自分の在職中は、そんなことはしませんでした。普通だったら当然無罪になるような「水掛け論」でも、有罪なんですよね。例えば、判決文には「女性の言い分は信用できるが、男性の言い分は信用できない」と書いてあることが多いのですが、男性の言い分が何故信用できないのかが書いていない。
   裁判官がそういう運用をしていれば、検察官も、それに引きずられてしまう。教科書通りの運用がなされていれば、「水掛け論は無罪」のはずなので、検察官も起訴しないはずです。そうなれば、警察の側も「こんな事案を送検してもつぶれてしまって、おしかりを受けるだけだ」と、早期釈放につながるはずです。
   本来ならばそうなるはずなんですが、裁判官が「水掛け論でも有罪」とやってしまうので、検察官も警察官もひきずられてしまう。ベルトコンベヤーになってしまう。裁判の現場が緩んじゃってて、教科書通りにやってないんですよ。
   条例違反の事件は、基本的には、簡易裁判所で扱うのですが、簡易裁判所の裁判官は、特に雑だと思いますね。書記官や検察事務官だった人など、正式な法曹資格を持っていない人が裁くことがあるんです。法律の素養に欠ける人もいて、判決にムラがあるんですよね。民事でも、「判決の書き方が分からず、適当に和解を勧めているだけ」というケースもありました。

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