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2008年5月11日 (日)

Time Up:十一.試合当日(中)

「……ええっ!」
 一同は仰天した。
「中止できないんですか?危険です!」
 捜査員の悲鳴に、小田は一瞥して言い返した。
「それがベストだが、政治的ダメージも免れない。進むも地獄、退くも地獄、ということだろう」
「……」
 捜査員は仏頂面で着席、鄭の足取りを追っていた捜査員が報告。十五日早朝、逗子マリーナでクルーザーが一隻紛失。捜索範囲を江ノ島電鉄・小田急・JR各駅に拡大した結果、小田急江ノ島線鵠沼海岸駅上りホームで同日正午頃、鄭によく似た男が目撃されていた。
「女と一緒ではなかったか?はっきり言えば片桐幸子とだ」
「連れがいた形跡はなし。時間をずらしたか別ルートを取ったのでしょう。クルーザーは捜索中。鵠沼付近で乗り捨てたと思われますが、既に処分したかもしれません」
「処分か。しかし近辺の海岸ならすぐ見つかりそうだが?」
「海岸じゃありません、海底です。船底に穴を開け泳いで逃げれば勝手に沈没してくれます。海岸から自動運転で沖へUターンさせてもいい」
「わかった。海岸と付近の海底を捜索。あとは鵠沼海岸からの足取りだが、町田に二泊していたらしいな?」
「ダイヤ次第では乗り換えなしですから。その後はこちらを目指した筈ですが、新たな目撃情報はなし」
「検問の配置はどうしますか?」
「当初通り。不用意にいじって穴ができては元も子もない」
 小田のその言葉に、工藤の背中を冷汗が流れ落ちた。
「一般客のマイカー来場は最終的に全面禁止だったな?」
「はい。早くから電車・バスでの来場を呼びかけており、影響はない見通しです」
「その件は再度主催者に確認。交通課は沿道および付近で不審車両を警戒」
 そこへ、東京に行った捜査員から連絡。警視庁に片桐幸子の、失踪前の恋人の記録があったという。
「警視庁に……記録?まさか――」
――死亡しています。
「――」
 捜査員は思わず顔を見合わせた。
――二〇〇六年十月二日。失踪の約半月後ですね。永倉敬介(ながくらけいすけ)、当時三十二歳。江東区の荷役埠頭、赤信号の交差点でタクシーに無人の大型トレーラーが追突、タクシー運転手もろとも即死。交通事故として処理されていますが、不審な点が二つありました。まず、被害者と現場付近の接点がなかった点。二つ目は信号機の故障。
「故障……?」
――色を切り替える回路のショートで、赤のまま変わらなくなっていたのですが、実は四日前に定期点検したばかりで、その時には全く異常なかったそうです。
「細工したかな?」
――当時の捜査員もそう疑ったそうですが、結局証拠不充分……つまり闇の中ということです。
「わかった」
 小田は電話を切り顔を上げた。
「聞いての通りだ。片桐幸子の恋人は、失踪の半月後死亡。一応事故扱いだが、状況から十中八九殺人だな」
「……彼女は、このことを知っているのでしょうか?」
「微妙だな。知らないまま、の可能性も排除できないが……」
「教えてやったらどうでしょう?」
 加藤が言った。
「何を言っているんだ!」
 中川は思わず席を蹴って立ち上がったが、小田は冷静だった。
「では聞くが、それで狙撃を阻止できるのか?いや、この期に及んでなお、彼女はなぜ名乗り出てこない?」
「それは……」
「考えられるのは、彼女の家族が事実上人質になっていることだ。片桐家、松嶋家および浮田家には警護を手配したが、第一、既に付近にいる筈の彼女にどうやって教える?テレビやラジオでは彼女が聴いていると限らないし、内容次第ではパニックになる」
「競技場の大型スクリーンや受像機があります。それも狙撃計画云々や片桐幸子の名前まで流す必要はありません。永倉敬介、他殺の疑いとか……」
「それもだめだな。一度事故と断定したものを覆して公表するに、今からでは手続がとても間に合わない」
「あの……片桐幸子本人に伝わればいいんですよね?」
 山崎がおずおずと手を挙げた。
「メールで送ればいいんじゃありませんか?」
「メール?」
「はい。テレビやラジオなら裏付けも必要でしょうが、本人だけに送る分には問題ないのでは?」
「だがどこに送るんだ?彼女はパソコンを持……」
 言いかけた小田におしかぶせるように、工藤が叫んだ。
「そうか、携帯電話か!」
「失踪と同時に携帯電話もなくなっています。処分していたり電源が切ってあればアウトですが」
「そして、恋人が殺された、と伝えるわけだな?」
「そうです。鵜呑みにしないまでも、警察が疑っていると知れば動揺する筈です」
「よし、やって見ろ」
 山崎は自分の携帯を操作していたが、肩を落として顔を上げた。
「電源が切れています。送るだけは送りましたが」
「くそ!」
 加藤が机を叩いて叫び、今度は柳沢が割り込む。
「アパートの留守番電話はどうでしょう?メッセージを入れて、外部からの確認を待つんです」
「可能な手は打て、か……いいだろう」
 柳沢が携帯電話をかけ終わるのを待って、中川は手を挙げた。
「監察官」
「今度は何だ?」
 小田はうんざりした表情で視線を投げかけた。
「自分を行かせて下さい。直接伝えます」
「だめだ。理由は説明した筈だな?」
「……」
「不服そうだな?」
「警察官として理解はできますが、当初から本件に関わってきた捜査員として納得できません」
 小田は苦笑した。
「何だそれは?君は警察官と捜査員を使い分けるのか?」
「自分は真剣です」
「それがふざけているというんだ!大体君は本件から外された筈だろう?何でここ……」
 工藤が声を荒げる。未明以降の不安が爆発したのだが、本人は気づいていない。
「お願いします」
 上半身を九十度に折った中川になおも言い募ろうとする工藤を、小田は制した。
「教えることには、反対じゃなかったか?」
「納得はしていませんが、阻止の可能性があるなら……」
「可能性ゼロとは言わないが、限りなくそれに近いのは同じだぞ?」
「わかっています」
「彼女が抵抗したらどうする?撃てるか?いや、君が撃たれる可能性も大だが?」
「覚悟はできています」
 中川はそう言い、笑いを消した小田を見返した。会議室は水を打ったように静まり返り、全員が中川を見つめる。その中に加藤の顔もあった。小田は先日の、井出の電話を思い返した。行過ぎないよう釘を刺されたとあの時は解釈したが、囮捜査になるまいとも言ったり、選択肢に考えていたふしがある。もちろん何かあればまず小田の責任だが上司の井出もただでは……
「……いいだろう」
「監察官!」
 小田の左右に座った幹部捜査員が一斉に目を剥いた。
「但し……」
 小田はそこで夏木に耳打ち、夏木はじっと小田の顔を見返した。
――よろしいんですね?
 夏木が小声で言うのが左右の、数人の捜査員だけに聞こえた。
――お願いします。
 無表情で返した小田に、夏木は諦め工藤に耳打ち、工藤の退室を見届けた小田は中川に視線を戻した。
「条件がある」
「?」
「関係者である君を本任務に関わらせるわけにいかない。しかし別任務で競技場に出向くなら話は別だ」
「――あ」
「爆破処理班を向かわせた。君はそれに合流、処理任務支援と本部連絡。そこで……」
 そこへ戻った工藤に続き現れた男女の、場違いな服装に一同は唖然とした。上半身にはブルーの日本代表ジャージ、女は梳き流した茶髪にバンダナ。崔と李は顔を見合わせ、山崎が恐る恐る声をかける。
「――美奈ちゃん、何してんの?」
 女は、斉木だった。

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