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2008年5月13日 (火)

Time Up:十一.試合当日(下)

「CRAWだ」
 二人を、小田はそう紹介した。
「クロウ……なるほど、カラスですか?」
「Civilian terrorism Response Assault Watch team(文民対テロ急襲・監視チーム)。知っての通り日本神話の象徴でもあり、日本サッカー協会のマスコットでもあるが、墓地で屍肉を漁るなど死のイメージもある。この任務には相応しいコードネームだろう?」
 誰の発案か小田の薀蓄に、しかし笑顔で応じる余裕のある者はいなかった。最小限の装備であたることになるその任務が、見た目の装いとは裏腹に、格段に危険であることは容易に想像し得た。
「この二名を同道してもらう、それが条件だ。本来任務は狙撃犯捜索と、適宜必要な処置の実行。所定装備のSATも別途待機させているが、原則秘密行動だからスタンドに入れるわけにはいかない」
「あ、だからこの格好?」
「そうだ。本警備に際しこのコードネームで、複数の特命私服警官を選抜、競技場と周辺に配備してある。いずれも射撃では、恐らく諸君の誰より優秀な者だ」
「つまり、監視――ですか?」
 中川の言葉に小田は微笑を消し、無言で見返しただけだった。場合によっては中川自身が、処置の対象になり得るということだ。
「目立たないよう覆面を使え。署長、所轄の覆面に空きは?」
「現在二台が稼動、残り三台のうち一台は予備なので、二台までなら廻せます。警務課に指示しますか?」
「お願いします。以上、質問がなければ各員配置に……」
 就け、と小田が言いかけたところで、また電話が鳴った。
「今度は何でしょうね?」
 口走って加藤に睨まれた山崎が舌を出し……電話を切った小田の険しい表情に笑顔を消した。
「どうしました?」
 隣席の夏木が訊ねた。
「JR東海本社に脅迫電話です。新幹線に炭疽菌を撒いたと」
「ええっ!」
 捜査員は顔を見合わせた。柳沢は瞑目、加藤は机に肘を突いた手で頭を抱え、山崎は天を仰ぐ。申し合わせたように難問続出だ。
「仕掛けた場所は不明。列車に限らず、駅その他の施設が標的の可能性もあり、全列車を停め捜索中です」
「身代金などの要求は?」
「特になし。JRから愛知県警に、録音テープの提出がありました」
「と言うとそのテープは今……名古屋?」
「ええ。現物は間に合わないので、こちらで録音・解析します。ダビングになるので音質は少し落ちますが」
「場合によっては、黄副主席の移動経路も変更必要ですね?」
「とにかくまず上に報告します。経路を含めたスケジュール変更の要否は、状況を把握して判断するしかありません」
 電話口の向こうで、井出の声が裏返った。
――新幹線に炭疽菌だと?徳田信枝の一味か?
 小田はさっきの工藤の興奮ぶりを思い出し、内心冷笑した。
「その可能性が大ですが、現時点では特定できていません」
――ダイヤは回復するのかね?移動手段の変更は?
「手配しますが、現時点の最優先事項は事実確認と……」
――もういい。何とか早急に事態を打開したまえ。
 電話が一方的に切れ間もなく、愛知県警からテープ再生準備が整った旨連絡。皆は全身を耳にし、流れてくる会話に意識を集中した。

――はい、JR東海でございます。
――よく聴け。新幹線に炭疽菌をばら撒いた。
――炭疽菌……え、えっ?
――我々を欺いた罰だ。せいぜい慌てるがいい。
――もしもし、君は一体――

 音声はそこで切れていた。通話時間は十五秒。仮に事前に察知していたとしても、これだけの時間で逆探知は無理だったかも知れない。
「欺いた罰……これはJRへの罰という意味ですかね?」
「単純に考えればそうですね。だとするとまずJR、特にJR東海で最近何かトラブル……」
 小田がそう言った時、
「あっ!」
 捜査員の一人が叫び声をあげた。
「先日新横浜駅で発生した、新幹線ジャックでは?」
「なるほど……では犯人は『日本紅衛兵』ということになるな?」
「そうですね」
「目的は、追跡捜査の攪乱かな?」
「復讐もあるのでは?JR東海だけでなく、警察や日本政府への」
 井出は早急に何とかしろと言ったが、現場にいない小田達に打てる手は限られている。まず新大阪までの沿線各都府県警察に日本紅衛兵メンバーの手配写真を電送、各駅への聞込みを指示。一方で警視庁と防衛庁に連絡し、科学防護隊と自衛隊の生物兵器対策要員の待機を手配。十分、二十分と時間は容赦なく過ぎていく。
 警視庁から報告が入ったのは、それから三十分近く後。
――「日本紅衛兵」メンバー、藤堂顕治(とうどうけんじ)と思われる男性が今朝の新大阪行き「のぞみ一一三号」で目撃されていました。
「そいつはどこだ?今もその列車に乗っているのか?」
――いえ、違うようです。
 この列車は名古屋発六時四十分「ひかり四三二号」として八時四十三分に東京着、折り返しで定刻の九時三分に発車していますが、この男は東京駅発車間際に、乗り間違えたというふうにホームに飛び降りたそうです。その後の足取りは捜索中。なお現在、この「のぞみ一一三号」は例の電話の後、新富士駅に停車中です。
「科学防護隊……いや間に合わないな、静岡県警と自衛隊に連絡、大至急新富士駅に要員を派遣」
 指示を受けて捜査員が各方面に電話をかけていたが、数分で電話口から顔を上げると
「県警と陸自に連絡しましたが……困ったことになりました」
「どうした?」
「付近に化学処理専門の部隊がいないんです。一番近いのは陸自の駒門(こまかど駐屯地・静岡県御殿場市)ですが、ここにいるのは第一高射特科大隊、第一戦車大隊と第一機甲教育隊だけです」
「では、一番近い化学処理部隊は?今どこにいるんだ?」
「ここです」
「え?」
「東部方面第一師団の化学防護小隊が、横浜駐屯地で待機中です」
「……待てよ?その部隊はここをカバーしているのか?」
「そうです。ですから、それを廻すわけにも……」
「私が話す……もしもし、お電話替わりました。警備本部の小田です」
――あ、小田監察官ですか?今、そちらの方にご説明……
「状況は伺いました。こちらをカバーしながら、新富士駅に部隊を派遣する方法はありませんか?」
――練馬に第一〇一化学防護隊がいます。ただ、長官直属の部隊なので、動かすには許可がありませんと……
「わかりました。警察庁から長官宛に要請を入れます。それで決裁が下りればいいのですね?」
――お急ぎならすぐ手配なさったほうがいいですね。練馬には、いつでも出動できるよう用意させます。
「了解しました。ありがとうございます」
 小田の電話に始まる、幾つかの手続きの後、現場に急行した部隊から報告が入ったのは四十分後だった。
――ありました!
「そうですか……それで、間違いなく炭疽菌だったのですか?」
――それが……これ、違いますねえ。
「はあ?」
 そこで、静岡県警の捜査員が替わった。
――品川発車直後、九号車の洗面所床に白い粉がこぼれていたそうです。乗客の通報以降、洗面所は使用禁止の措置がとられています。
「わかったが、それで危険はないのか?炭疽菌とわかるまでの間、そばの通路を通った乗客もいるだろう?」
――それが、床の濡れていた個所に散乱していたのですが、ご存じかどうか、炭疽菌は水分に触れると膨張する筈なのに全くその形跡がない。試しにヨード液を垂らしたところ……
「ヨード液?では、まさか……」
――紫に変色しました。お察しの通り、これは片栗粉です。どうやら一杯食わされたようですね。

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