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2008年3月16日 (日)

Time Up:三.爆破予告(上)

 五月一日、港北署大会議室。
 正面に新横浜駅・競技場周辺の地図が張り付けられ、捜査員が見守る中、工藤がその前をゆっくり往復しながら、警備の細部を一つ一つ確認している。
「マルタイ(警護対象者)のスケジュール。十七日に横浜入り、夕刻新横浜プライムホテル泊。十八日、客室で昼食後一時半出発。一時三十五分、競技場に到着し待機。正面玄関真上の西一般ゲートは、マルタイの通過前後十分に限って閉鎖。二時キックオフ。四時半に新横浜駅直行、十七時十分発『のぞみ四五号』で京都へ移動」
「競技場までの詳細な経路は?」
「いちょう通りを直進、ワールドカップ大橋を渡り労災病院北側、新横浜元石川線経由で競技場北側に到達。復路は労災病院北側交差点で新横浜元石川線を右折、新横浜駅着」
 話し疲れたのか、工藤はそこで一旦言葉を切った。
「この他には、環状二号線を駅前まで南下、新横浜元石川線に入る経路もあり、予備経路に充てます」
「駐車場の扱いは?」
「屋内は関係者専用とし、一般利用は屋外駐車場に制限。但しこちらも状況次第では全面禁止、電車・バスのみでの来場に変更」
「チケットはもう完売……だったな?」
「五輪代表などだと直前まで割と空席もありますが、今回はワールドカップに出場するA代表クラスの試合で、発売初日にほぼ売り切れたそうです」
「それでダフ屋も暗躍するわけだ……」
 その時電話が鳴り、応対した捜査員が小田を呼んだ。
「何だ?」
「警備局長からお電話です」
「用件は?」
「それが……」
 言葉を濁す捜査員から受話器を受け取った小田は、数分後厳しい表情で電話を切り顔を上げた。
「皆聞いてくれ。約十分前、官邸に脅迫電話。電話の主は左翼過激派組織『日本紅衛兵』。要求は留置中の、徳田信枝の釈放。拒否すれば今月十八日、横浜国際総合競技場で開催――」
「狙撃ですか?」
「爆破すると言ってきた」
 捜査員達は息を呑んだ。
「死人が出るとも言ったそうだ。要求は他に現金一〇〇万米ドル。チューリッヒの銀行口座を指定、二〇万ずつ五回に分け、四十八時間ごとの振込みを指示してきた」
「逃亡資金……でしょうね。総書記観戦への言及は?」
「それはなかった。タイムリミットは試合終了、つまりタイムアップ時点。キックオフは午後二時だったな?」
「二時丁度キックオフ、前、後半各四十五分と二十分のハーフタイムで、終了は早くて三時五十分。これにロスタイムが加わり、三時五十五分前後といったところでしょう」
 小田はそれを、ホワイトボードに書き込んでいった。
「タイムアップは、三時五十分から五十五分の間か……」
「政府の対応は?」
 神奈川県警本部の夏木功(なつきいさお)警備課長が質問した。
「硬軟両面。一応犯人には『前向きに検討』で対するそうです」
「まさか、おおよど号の時と同じ超法規的措置……?」
「これはあくまでポーズで、警察としてはもちろん確保を最優先。ただ確かに、政治的判断で最終的にどうなるかはわかりません。狙撃計画との関連は、偶然にしては出来すぎの感もありますが確認中です」
 言葉を切った小田に促され、警視庁外事課長代理の原が立ち上がった。
「政府側スナイパーの情報。ナタリー・江(カン)。中国系アメリカ人。プロの世界でのコードネームは『サロメ』。先月、スイスにある銀行口座に、一〇〇〇万米ドルが振り込まれています」
 捜査員達はまた顔を見合わせた。
「十数億円ね。べらぼうな額というのはわかりますが……」
「ただ、首脳クラスの暗殺報酬としてはこれでも安すぎるそうで、標的は魚前国防相で間違いないようです」
「政府側のスナイパーは、女性か……」
「あの……」
 磯貝が挙手して発言の許可を求めた。
「相手側の狙撃犯も女性じゃないでしょうか?」
「……根拠は?」
「異性だといざという時に逡巡の可能性があるのではと。一流のプロならあまり関係ないのかもしれませんが、クライアント側が万全を期すつもりなら……」
「男は助平だと?」
「まあ、そういうことです」
 小田の発言は聞きようではセクハラだが、磯貝はにこやかに返し小田も微笑、空気がようやく和んだ。
「サロメはノーマークというわけにいきませんか?」
「……彼女に始末させる、と?いや、既に入国していればあくまで我々が対応すべきだ。仮に今回解決しても、一度こういうことを認めては悪い前例になる」
「しかし、どこから狙撃犯の情報を?」
「知っている者も多いと思うが、工作員と言っても殺人・拉致など凶悪行為を実行するのは一部で、監視・情報収集などは在日朝鮮人が担当する場合が多い。そしてその元締が……」
「総聯ですか?」
「そうだが狙撃計画の存在を平壌が認めていない以上、当面は独自に情報を収集するしかない」
 小田はそう言い、再び原を促した。
「実は先日遺体が揚がった稲生課長補佐が失踪直前、或る人物を追っていました。本多正勝、四十六歳、横浜市港南区在住。中華街の北京料理店『十全閣』のコックですが所在不明」
「北京も絡む可能性あり、か……よし、総聯横浜支部に加えそこにも張り込みだ」

 五月二日。
 総聯横浜支部に張り込んだ捜査員が或る人物の出入りを察知。中堅不動産会社・極東興産取締役だが、この極東興産は県内に拠点のある暴力団・相竜会のダミー会社で、彼自身相竜会幹部だった。
「相竜会というと、東京に本部のある山川連合の構成組織……総聯とマルB(暴力団)の癒着、か」
 工藤は唸った。
「間違いありません。それとこの幹部ですがここ一年、定期的に中華街の或る店に出入りしています」
「……『十全閣』か?」
「本多という男を雇い入れたのとほぼ同時期です。やはり、只のコックではないですね」
「原警視に外事の情報と照合してもらおう。相竜会と言えば例の振り込め詐欺にも関与していたな?ありもしないアダルトサイト料金や示談金をでっちあげ……」
「その通りです」
「それだ。相竜会は県下で山川系振り込め詐欺の元締らしいが、その収益も北に流れていた、かな?」
「恐らく。それと、捜査二課からも情報をもらってきました」
「二課というと知能犯・経済犯担当だな。詐欺の類か?」
「はい。先年ニュースにもなった時間外株取引で、極東興産にかなりの金額が流れていました。これが被害企業と金額のリストです」
 捜査員が机上に並べた数枚のFAXを、夏木が隣からのぞきこみ
「どれも外資系……か?」
「全て米国資本系です」
「これは……」
 工藤は、目の前に並んだ被害額とその合計に驚いた。
「合わせると小さな島一つ買えますね……相竜会が背後に居るのは間違いないのか?」
「確かです。警察庁も早期にマーク、内偵していました。厄介なのは外資ばかり狙っていることで、国内系の同業他社は、表面上捜査に協力的ですが……」
「ナショナリズムか?」
「内心は満更でもないようです。北朝鮮が一枚噛んでいるとすれば、それも目的でしょうね」
「だが、それならなおさらこの件は何としても摘発しなければ。工作の資金源を絶つためにもな」
 工藤は横浜での総聯と暴力団の関係を、電話で井出に報告した。
――左翼はともかく暴力団と手を結ぶとは……しかし立証できない限り、突破口としては弱いな?
「まだ裏は取れておらず、事実無根と否定されれば現時点ではお手上げです。小田さんに相談しますか?」
――いや、今夜都内で会うから直接伝えておく。会わせたい人物がいてね。明日詳しく話すよ。

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